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東京高等裁判所 昭和45年(ラ)728号 決定

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める。」というにあり、その理由の要旨は、

「(一)本件競買の申出は、井出野七五郎を代理して小国清がなしたものであるところ、小国清はいわゆる競売ブローカーであつて、井出野七五郎から代理権を付与された事実なきにかかわらず、同人不知の間にその名義を冒用して本件競買申出をなしたものであるから、同人に対してなされた本件競落許可決定は瑕疵があり、取消さるべきものである。

(二)抗告人は左記のとおり適法な賃借権者であるにもかかわらず、これに対し利害関係人としてなんらの告知手続をとることなく競売手続をすすめ、競落許可決定を言渡したのは違法である。すなわち、抗告人は、昭和四三年九月一〇日債務者兼所有者たる株式会社江上商店より、本件競売の目的物件たる建物を賃料一か月につき二万円、毎月末日払、期間三年、敷金賃料の二か月分を差入れることと定めて賃借し、その引渡を受け、右賃貸借契約は同月二四日公正証書に作成したものである。」

というにある。

よつて按ずるに、記録編綴の井出野七五郎名義の委任状によれば、同人は昭和四五年九月二日小国清を代理人と定め、同人に対し本件競売事件の競買に関する一切の権限を委任したことを認めることができ、いわゆる競売ブローカーであるとしても競買の代理人となれないわけではないから、抗告理由(一)は理由がない。

次に、登記を有しないが、建物の引渡によつて抵当権者に対抗し得る賃借権者は、競売裁判所にその権利を証明すると共に、その旨の届出をすることによつて、競売法第二七条第三項第四号の利害関係人となるものと解するのが相当である。同号は、単に「不動産上ノ権利者トシテ其権利ヲ証明シタル者」と規定しており民事訴訟法第六四八条第四号の「不動産上権利者トシテ其債権ヲ証明シ執行記録ニ備フ可キ届出ヲ為シタル者」との規定と文言を異にするが、手続の確実・簡明を期する上から、同様に解すべきである。したがつて、かかる賃借権者は、右証明および届出をした時以後において利害関係人となるのであつて、競売裁判所は、たまたま申立債権者添付書類、執行官の賃貸借取調報告書等によつてかかる賃借権者の存在することが判明しても、右証明および届出がなされない以上、これを利害関係人として遇する必要はないものといわなければならない。しかるに、本件においては、競落許可に至るまで抗告人が右証明および届出をした事蹟はなんら認められないから、抗告人は利害関係人として競売期日の通知を受ける権利を有しなかつたものというほかはない。よつて抗告理由(二)も理由がない。

その他記録を精査するも、原決定を取消すべき違法の点は発見されないから、本件抗告は理由なきものとしてこれを棄却

(裁判長裁判官 浅賀栄 裁判官 川添万夫 秋元隆男)

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